小説仕立ての労働法解説書

 大内伸哉神戸大学教授の『労働法で人事に新風を』(商事法務)を読みました。正社員150名、準社員55名が働く酒類(主として日本酒)の販売を行う中堅商社の豊夢商事株式会社を舞台に物語が展開します。

 「社員はみな家族」が口癖の二代目社長中上義行、大手自動車メーカーで人事畑を長く経験し、先代社長に三顧の礼で迎えられた田辺専務(人事部長兼務)、第二新卒といってもよい若さで入社した、社会保険労務士の資格を持つ戸川美智香が主な登場人物です。本書は、戸川美智香が入社してからの、豊夢商事の人事部の日常を描いたものです。正義感あふれる美智香は、田辺専務が進めてきた労働法の視点が希薄な人事システムを是正するために次々とチャレンジしていきます。

 第1話 正社員って誰?
 第2話 派遣社員は、よその社員?
 第3話 書面で同意してもダメなの?
 第4話 社員のメンタルヘルスに配慮せよ!
 第5話 ワーク・ライフ・バランスって何?
 第6話 半数以上が管理職で大丈夫?
 第7話 できない社員こそ解雇できない!
 第8話 ITを味方に!
 第9話 人材の獲得は難しい!
 第10話 ハラスメントに御用心!

 それぞれの話題ごとに、小さなテーマが埋め込まれ、田辺専務の労働法に無理解な発言や考え方に美智香が判例を引用しながら反論していきます、中上社長はその間を揺らぎながらも多くの場合は美智香の説明に傾いていきます。美智香と田辺専務との間には、超えられないわだかまりがあるようです。第10話で、美智香と田辺専務との因縁、超えがたい対立の背景が明らかになります。

 第5話では、「私ばかりが、なぜ残業を」との従業員からの直訴があり、同じ所属の従業員の残業ができない事情が次々と明らかにされます。親の介護をしている従業員に関して、美智香が「法律の話で言いますと、育児の場合には、所定外労働の免除を請求することができるのですが(育介法16条の8)、介護については、そのような規定はありません。法改正して、介護と育児を同じようにしようという話もありますが」と述べています。この点については、平成29年1月1日施行の改正育児・介護休業法で介護のための所定外労働の制限(残業の免除)が新設されました(育介法16条の9)。

 小説仕立ての労働法解説は、美智香と田辺専務の対立と中上社長の関わり方を軸に、美智香の判例を基にした明快な説明により、わかりやすいものとなっています。どのような展開をみせるか、ハラハラドキドキしながらつい夢中になってしまいます。判例が多数取り上げられ、必要に応じ注釈が施されています。楽しみながら労働法を学べる本だといえましょう。

 
 

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